雨の滴と恋の雫とエトセトラ
阿部君も何を話していいのか、少しそわそわするように、ぎこちなかった。
いつまでも見つめているだけでは埒が明かなかったので、私は思い切って切り出した。
「あの、とにかく、その、小学一年生の時のことだけど」
いきなりで唐突すぎたかもしれない。
阿部君も、急に緊張したように私を見つめていた。
辺りはどんどん、暗くなってかろうじてお互いが見えるくらいになり、神社の中は肝試しをするような不気味さが漂っていた。
それでもこの場所から動けなくなり、私達はそのまま話を続ける。
「そうだね。あの時の話だったね。久し振りに会ったから、嬉しくてつい見とれてしまったよ。倉持さん、すごくきれいになったね」
この暗闇で果たしてどこまではっきりと私の顔が見えるのか怪しいが、とりあえず話を潤滑にするためのお世辞だろう。
「阿部君も、すっかり大人になった感じがする」
はっきりいって、顔は小学生にみたままの面影がそのまま残っていたし、先日会った阿部先生に似ていたから、そんなに変わった感じは見受けられなかった。
あまり話した事がなかっただけに、私も当たり障りのないことを適当に返した。
「瑛太からは倉持さんのこと、時々聞いていたんだ。僕がずっと好きだったから、それで報告をしてくれてたんだと思う」
「えっ」
いきなりさらりと言ってくれた。
私が時々近所のスーパーや図書館に顔を出すことを瑛太は知っていたが、全てを阿部君に報告していたということだった。
やはり阿部君は私の事が好きということは本当のようだ。
しかし、それを聞いたところで、私には何も応えられなかった。
「ごめん。こんなこと言ったら迷惑だよね。でも、小学一年のとき、確かに僕はあの雨の中、君の頬にキスしてしまったんだ。そのことについて僕に聞きたかったんだろう」
「ほんとに、それは阿部君だったの?」
「そうだよ。あの時、下校時間になって雨が降って、皆、黄色い置き傘を使ったときだったよね」
それは合っている。
でもこちらから傘の事を訊きもしないのに、詳しく言いすぎじゃないだろうか。
でも、頭のいい人は要点をつきながら簡素に話す傾向にあるのかもしれない。
私はその先をもっと聞きたくなった。
「なぜ、あの時そんなことになったの?」
阿部君は少し考えて言葉を選んでいるようだった。
「倉持さんは、授業で手紙を書かされたの覚えてる? 好きな友達に手紙を書いて交換したこと」
手紙を書くことがあったのは覚えている。
あの時、私は欲しかったのにもらえなかったから、それは覚えていた。
私は首を縦に振った。
「倉持さんは僕に手紙を書いてくれたよね」
「えっ、私は阿部君に手紙を書いた?」
「やっぱり、それは忘れてた? あの手紙を貰って僕は嬉しかったんだ。それで気持ちが高まっていて、それを瑛太に言ったら、男なら行動で示せって言われてさ。それで囃し立てられて、ついあんな事をしちゃったんだ」
その辺の記憶はあやふやだった。
私は訝しげに阿部君を見ていたが、暗闇は果たしてどこまでお互いの表情を読み取れただろうか。
阿部君はそのときどんな表情をしていたのかはっきりとわからなかった。
「私は、阿部君にどんな事を書いたの?」
「すごくかわいらしい絵と一緒に、ハートマークがついていてさ、女の子らしい手紙だったと思う」
「手紙なのに、絵を描いてたの? 他には?」
「”すき”って文字もあった」
ラブレターみたいになってるじゃないの。
何を書いたかはっきり覚えてないから、それがほんとのことかもわからない。
いつまでも見つめているだけでは埒が明かなかったので、私は思い切って切り出した。
「あの、とにかく、その、小学一年生の時のことだけど」
いきなりで唐突すぎたかもしれない。
阿部君も、急に緊張したように私を見つめていた。
辺りはどんどん、暗くなってかろうじてお互いが見えるくらいになり、神社の中は肝試しをするような不気味さが漂っていた。
それでもこの場所から動けなくなり、私達はそのまま話を続ける。
「そうだね。あの時の話だったね。久し振りに会ったから、嬉しくてつい見とれてしまったよ。倉持さん、すごくきれいになったね」
この暗闇で果たしてどこまではっきりと私の顔が見えるのか怪しいが、とりあえず話を潤滑にするためのお世辞だろう。
「阿部君も、すっかり大人になった感じがする」
はっきりいって、顔は小学生にみたままの面影がそのまま残っていたし、先日会った阿部先生に似ていたから、そんなに変わった感じは見受けられなかった。
あまり話した事がなかっただけに、私も当たり障りのないことを適当に返した。
「瑛太からは倉持さんのこと、時々聞いていたんだ。僕がずっと好きだったから、それで報告をしてくれてたんだと思う」
「えっ」
いきなりさらりと言ってくれた。
私が時々近所のスーパーや図書館に顔を出すことを瑛太は知っていたが、全てを阿部君に報告していたということだった。
やはり阿部君は私の事が好きということは本当のようだ。
しかし、それを聞いたところで、私には何も応えられなかった。
「ごめん。こんなこと言ったら迷惑だよね。でも、小学一年のとき、確かに僕はあの雨の中、君の頬にキスしてしまったんだ。そのことについて僕に聞きたかったんだろう」
「ほんとに、それは阿部君だったの?」
「そうだよ。あの時、下校時間になって雨が降って、皆、黄色い置き傘を使ったときだったよね」
それは合っている。
でもこちらから傘の事を訊きもしないのに、詳しく言いすぎじゃないだろうか。
でも、頭のいい人は要点をつきながら簡素に話す傾向にあるのかもしれない。
私はその先をもっと聞きたくなった。
「なぜ、あの時そんなことになったの?」
阿部君は少し考えて言葉を選んでいるようだった。
「倉持さんは、授業で手紙を書かされたの覚えてる? 好きな友達に手紙を書いて交換したこと」
手紙を書くことがあったのは覚えている。
あの時、私は欲しかったのにもらえなかったから、それは覚えていた。
私は首を縦に振った。
「倉持さんは僕に手紙を書いてくれたよね」
「えっ、私は阿部君に手紙を書いた?」
「やっぱり、それは忘れてた? あの手紙を貰って僕は嬉しかったんだ。それで気持ちが高まっていて、それを瑛太に言ったら、男なら行動で示せって言われてさ。それで囃し立てられて、ついあんな事をしちゃったんだ」
その辺の記憶はあやふやだった。
私は訝しげに阿部君を見ていたが、暗闇は果たしてどこまでお互いの表情を読み取れただろうか。
阿部君はそのときどんな表情をしていたのかはっきりとわからなかった。
「私は、阿部君にどんな事を書いたの?」
「すごくかわいらしい絵と一緒に、ハートマークがついていてさ、女の子らしい手紙だったと思う」
「手紙なのに、絵を描いてたの? 他には?」
「”すき”って文字もあった」
ラブレターみたいになってるじゃないの。
何を書いたかはっきり覚えてないから、それがほんとのことかもわからない。