雨の滴と恋の雫とエトセトラ
「阿部君も私に手紙を書いてくれた?」

「うん、書いたよ」

 だけど、それはやっぱり私の手元には届かなかった。

 この時の事を言うべきか、私は迷った。

 子供の頃とはいえ、読む前になくしてしまったとはいいにくい。

「ごめん、やっぱり覚えてない」

 そこは、適当に誤魔化しておいた。

 これで長年の疑問が解決したことになる。

 ずっと曖昧な記憶の中でくすぶっていた記憶だった。

 瑛太がこの話を持ち出さなかったら、いつまでもくすぶり続けていたことだろう。

 でもこれだけ、真実が分かったと言うのに、何かがすっきりとしない。

 あの手紙は、確か隣の席に座っていた男の子に向けて書いたはず。

 それが阿部君だった?

 そうだとしたら、私は阿部君が好きだったということになる。

 私はとても違和感を覚えて、考え込んでしまった。

 好きだった人のことまで忘れてしまったなんて、自分でもかなり情けないものを感じていた。

 所々の記憶は合うし、頭のいい阿部君の記憶は信頼おけそうなだけに、はっきりと思い出せない自分が悪いだけとしかいえない。

 辺りはすっかり暗闇に支配され、どこからか漏れてくる微かな光でぼんやりと建物や木々のシルエットが見えるだけだった。

 雨は目に見えないながらも、ポツポツとした雫が落ちているのは感じられた。

 このままここでずっと考え込んでいても仕方がない。

 でも阿部君は私の事を気にかけて、何も喋らないで辛抱強く付き合っていてくれた。

 それをいい事に阿部君が雨に濡れるのも気にかけずに私は納得できない疑問をぶつけてみた。

 まだどこかで信じきれていない自分がいる。

 何かの齟齬がないか私は確かめてみたかった。

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