雨の滴と恋の雫とエトセトラ
「私、どうして阿部君に手紙を書いたんだろう」

「倉持さんが僕の隣の席に座ってたからだよ」

 そこは辻褄が合う。

 手紙を書いたのは、隣の席の男の子だったことはしっかりと覚えていた。

 しかし、その男の子が誰だったのか、そこがすごくあやふやだった。

 やはり阿部君だったのだろうか。

 私が考え込んでいる側で、阿部君は居心地が悪くなったようにその場の空気が乱れた気がした。

 雨が降ってきたせいかもしれない。

 阿部君のメガネに、雨の滴がついているのがぼんやりと見えた。

「すっかり暗くなっちゃったね。倉持さんもそろそろ家に帰らないと家の人が心配するかも」

「阿部君こそ…… 今日は本当にありがとう。無理を言ってごめんなさい」

 私達はそろそろお開きの雰囲気を感じていた。

「別にそれはいいんだけど、これで過去の記憶はすっきりした? ほんとにそれでよかった? 僕もまさか今になってこんな事を話すなんて思わなかった。倉持さんも、あれが僕の仕業だったと知って怒ってない?」

「ううん、もう過去の事だし、それは怒ってないけど、私がそれを今頃持ち出してつき合わせてしまってごめんなさい。私の方がとても迷惑かけたと思う。阿部先生まで巻き込んじゃったし、本当にごめんなさい」

「君が謝ることはないよ。そんな風に言われたら、僕の方が辛いよ。ほんとにこれでいいの?」

「えっ?」
「ねぇ、本当にあの時のことはっきりと思い出せない? 君はもっと真剣に思い出すべきだと僕は思う。そうだろ、瑛太!」

「えっ? 瑛太?」

 阿部君は境内の奥の暗闇を見つめていた。

 真っ暗な闇から、背の高いシルエットが現れ、それが近づいてきた。
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