雨の滴と恋の雫とエトセトラ
「倉持さん、二人はそんなに悪気があってのことじゃないんだ。エスカレートして後にはひけなくなって、こんなにややこしくなってしまっただけだ。一番悪いのはシンプルな事をややこしくした拓登の身勝手さだと思う。でも拓登は倉持さんの事が好きなんだ。その事をわかってやって欲しい」

 阿部君の言いたいことは分かるけど、そうなると思い出せなかった自分が惨めになってくる。

 振り返れば、拓登は私に思い出してほしい態度を取っていた。

 拓登と瑛太が不自然に対抗したり、絡んできたのも、今なら納得できる。

 だけど、私はこの時とても素直に、ああそうですか、とは言えなかった。

 見抜けなかった罪悪感や劣等感、試されていたことへの腹立たしさや悔しさといった複雑な感情が素直に笑って流せない。

 二人にとったら悪気はなかっただろうけど、どこかでそれが意地となってゲームになっていた事が許せなかった。

 なぜ、こんなもやもやした嫌な感情が湧いてくるのか不思議だった。

 どこかにぶつけたいやるせない気持ち。

 これが私のプライドを傷つけたように思う。

「こんなことになるのなら、最初から教えてくれたらよかった。どうして傘を貸したあの日、素直に教えてくれなかったの」

「あの時は、まさか真由に会うなんて思わなかったんだ。いきなり傘を突きつけられるし、真由も急いでるみたいだったし、僕も戸惑ってパニックだった。それに僕はすぐに真由だってわかったのに、真由が僕を見ても気がつかなかったことがショックでもあった」

「だって、ずっと会ってなかったし、小学生の時は拓登、いがぐり頭でさ、今と全然雰囲気が違うじゃない。どうやってすぐに思い出せるのよ」

「でも僕はずっと君の手紙持っていて、覚えていたよ。僕も真由に手紙を書いたとき、自分の気持ちと、必ず会いに行くから忘れないでって書いたんだ。それで少しぐらい覚えてるかもっていう期待があるじゃないか」

 手紙──。

 私は拓登からの手紙は受け取っていない。

 探したけど、読む前に失くしてしまった。

「私、拓登からの手紙を見てないの」

「えっ、見てない? どうして」

「ごめん、読む前になくしてしまったの。一生懸命探したのに、どうしても見つからなくて」

 拓登はかなりショックだったのだろう。

 息を喘ぐ音がかすかに聞こえただけだった。

「とにかく、もういいじゃないか。倉持さんは思い出したんだし、拓登もすっきりしただろ。これで過去の問題は解決したから、この先の事を考えればいいじゃないか」

 阿部君は穏やかにまとめようとしていた。

「でもさ、やっぱり女って過ぎ去ったことは簡単に忘れられるからいいよな。真由も過去のことはどうでもよくて未来の事を考えたいっていってたもんな。俺はそのとき、拓登が可哀想でさ、ちょっと腹が立って、温度差の違いについムキになって意地悪になっちまったけど」

 瑛太が豹変した時のことだと思い出した。

 あれは拓登の気持ちを考えていての、行動だったのかと納得する。

 瑛太は親友として力になりたい、また好きな人としてライバル心から私を排除したいという複雑な気持ちを抱えてるから、特殊な思考になってしまうのだろう。

 今となっては、瑛太の行動も理解できる。

 拓登はこのときまだ黙っていた。

 この暗闇で、はっきりとした表情が見えないのは、果たして吉なのか凶なのか。

 私がある程度、憤慨しているのに対して、拓登もそれに似た感情を抱いているのが、闇から伝わってくる。

 拓登もやはり失望しているのだ。

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