瞳に印を、首筋に口づけを―孤高な国王陛下による断ち難き愛染―
 クラウスにかけてもらったジュストコールを胸元で軽く握っていると、心を読んだクラウスが「心配しなくていい」と短く告げた。その反応に驚いていると進むよう促される。

「お前の提案した秘密通路がこんなときに役に立つとはな」

「こういう使い方は想定していなかったんだけれど」

 からかい混じりに呟かれ、レーネは真面目に返す。もっといえば、まさか自分が何度も利用するはめになるとは思わなかった。しかし今のやり取りで少しだけ気持ちがほぐれる。

 王の執務室に繋がる道を利用し、城内に戻るとふたりの男が部屋で待機していた。どちらも同じ黒と赤の軍服を身に纏っている。

 アルノー夜警団のアードラーであるスヴェンとルディガーだ。部屋にはふたりしかおらず緊迫めいた雰囲気だったが、帰還者の姿を確認しルディガーが安堵の表情を浮かべる。

「戻ったか。そろそろ限界だとスヴェンと話していたところだったんだ」

「助かった。礼を言う」

 濡れた前髪を搔き上げ、クラウスはルディガーに返した。

 レーネの姿が見当たらないとタリアから告げられ、短剣がなくなっているのを確認してからクラウスはこの部屋から外に出てレーネの後を追うと決めた。

 その際アードラーのふたりと重要な話を執務室で行うため誰も近づかないようにと他者を払い、スヴェンとルディガーをここに待機させたのだ。

 とはいえ国王であるクラウスをひとりで行動させることにふたりは難色を示した。十中八九レーネに関係しているのだと悟ったが、クラウスは詳しい事情も話さない。
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