瞳に印を、首筋に口づけを―孤高な国王陛下による断ち難き愛染―
「私は神子でもフューリエンでもない。私は……」

「レーネは、レーネだ」

 独り言のように呟くと、強く言い切られる。思わず目をぱちくりとさせるレーネにクラウスは真剣な面持ちで続けた。

「気ままで気まぐれなくせに変に真面目で、すぐにひとりで抱え込む。人のことばかりで非情にもなりきれず、そのうえ不器用で素直じゃない」

 主観的に指摘されるが、否定できない。そんな捉えられ方は初めてだ。泣き出しそうになるのを必死で我慢し、レーネは逆に笑ってみせる。

「それって褒めてるの? (けな)してるの?」

 レーネのぎこちない切り返しにクラウスは穏やかに微笑む。重ねていた彼女の手をおもむろに自分の口元へ持っていき、白い滑らかな掌に口づけた。

「そういうところを含めてすべてが愛おしいって言ってるんだ」

 レーネの視界を不明瞭にさせていた涙の膜は、堪えきれず目尻から滑り落ちていく。クラウスは吸い込まれそうな黄金の瞳をじっと見つめ、そっと目元に唇を寄せた。

「共に生きてほしいんだろ。だったらお前はなにも心配せずにただ愛されていたらいいんだ」

 押し寄せてくる感情をレーネは上手く言葉にできずにいた。応えるように視線を逸らさずにいると顔を近づけられ、どちらからともなく唇を重ねる。

 温かさに包まれる一方で、レーネの中でなにかが壊れていく音がした。
< 144 / 153 >

この作品をシェア

pagetop