瞳に印を、首筋に口づけを―孤高な国王陛下による断ち難き愛染―
 彼の言う通り、こんな茶番には付き合えないと言って。王に対する礼儀も敬意も払わない娘など切り捨てて片眼異色である女王を、ゾフィを選んで。

 心の中の訴えなど微塵も表面化させず、返事がないクラウスに対しレーネはさらに神経を逆なでする。

「どうします? 私が欲しいのならその命、懸けられますか?」

 言っておきながら胸中は真逆だ。レーネは必死に懇願する。

 どうか断って。国王がこんな馬鹿な話に乗らないで。

 顔を怒りで真っ赤にさせたバルドが、ルディガーの制止を振りきり、ふたりの間に割って入ろうとする。その気配を感じ、レーネは目を閉じた。

 今後あなたの前に二度と現れないと約束する、誓うから……お願い、許して。私を諦めてよ!

「……いいだろう」

 今の発言は誰のものだったのか、どういう意味なのか。すぐにレーネは理解できなかった。

 目を開ければ、クラウスが不敵な笑みを浮かべている。そして彼はすぐさま振り返ると、夜警団の面々に声をかける。

「俺の剣を預けていただろ。持ってきてくれ」

「陛下!」

 バルドが鬼の形相でクラウスに近づいた。太く長い眉が吊り上がり、声を張り上げる、

「なりませぬ。なにをお考えですか! こんなふざけた話を王が了承するなどあってはなりません!」

「バルド補佐官の仰るとおりです。陛下に剣を振らせるわけにはいきません」

 さすがに静観していたルディガーも口を挟む。自分が同行したのは国王陛下の護衛のためだ。わざわざ彼を危険にさらすわけにはいかない。

「ここは俺が」

「いい、ルディガー。バルドを押さえて下がっていろ」

「しかし」

 食い下がるルディガーにクラウスは真剣な眼差しを向ける。
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