瞳に印を、首筋に口づけを―孤高な国王陛下による断ち難き愛染―
「命令だ。下がっていろ」

 まだなにかを言いかけたルディガーだが、ぐっと言葉を飲み込む。命令だからというよりも、クラウスの本気さが伝わってきた。

 これがもうひとりの双璧元帥であるスヴェンなら無視したのかもしれない。だがルディガーにはできなかった。

 長であるルディガーが折れたのだからその部下である団員がクラウスに逆らえるはずもない。複雑な面持ちでひざまずき、国王に剣を差し出す。

「国王陛下とはいえ、剣で対峙すれば手加減できません」

「かまわない。あとになって本気ではなかったと言われても困るからな」

 レオンの気遣いをクラウスはすげなく返す。少なからずレオンのプライドを傷つけたのも事実で、彼の表情は険しいものになった。

 近くにいる者に下がるよう促し、自身の帯刀からサーベルを抜く。

 クラウスも自身の剣を確かめるように王家の紋章の入った(さや)に触れる。(つか)に続く手の甲を覆う金属の部分にも細やかな装飾が施されていた。

 鞘を払い、ゆっくりと研ぎ澄まされた細身の剣が姿を現す。片刃のレオンに対し、クラウスのレイピアは両刃ではあるが、剣の幅があきらかに違う。

 彼らの体格差を象徴しているかのようで、レオンが全力で剣を振れば、クラウスの剣で受け止められるか定かではない。しかも相手は日常的に剣を扱っている身だ。

 ルディガーはすぐさま自分が間に入れるよう、自身の剣に手をかける。血の気が引いて、今にも倒れそうな者がほとんどだが、誰ひとりとして言葉を発しない。

 よろめきそうなゾフィを年配の侍女が支えた。レーネは自身が事の発端とはいえ、最早成り行きを見守ることしかできない。
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