瞳に印を、首筋に口づけを―孤高な国王陛下による断ち難き愛染―
 やがてゾフィの話は国王の耳に入る事態となる。

 アルント城に潜り込めたのはレーネの目論見通りだったが、誘拐まがいで連れ去られ地下牢に閉じ込められたのは誤算だった。

 やっと巡ってきたチャンスとはいえ、妹の無事が最優先だ。どんなことがあってもゾフィを守る。

 まだ八歳になったばかりの妹を背に、レーネは頭を働かせ脱出の機会を窺っていた。その傍らでここにあれはあるのかと考える。

 そんな中で彼に出会うとは思いもしなかった。運命の悪戯と呼ぶには綺麗すぎて、むしろ自分の背負う宿命からは逃げられないのだと嘲笑されたかのようだった。

 戸惑いの渦が起こり、心の奥底の古傷が疼いて痛みだす。

 アルント城を後にして、レーネは自分の信念が揺らいだ。この一件も合わさり、今になって妹をフューリエンに仕立て上げ、利用していることに嫌気が差す。

 良心が痛んだりもしたが、ゾフィは周囲から特別視されるのを嫌がりはしなかった。むしろそこに自尊心を抱き、彼女は自分の意思で本物のフューリエンになりたいと強く願いはじめる。

 それは城でクラウスに出会ってから顕著になっていった。

 だからレーネはゾフィの望みを叶えるため、侍女として身を潜め全力で彼女に尽くした。かつて伝説のフューリエンが一貴族だった青年を国の王にしたように。

 姉妹とはいえ同じような立場の人間はいらない。注目されるべきはひとりでいい。

 公国の君主となった美しい妹は、幼い頃に助けてもらった青年と対等な立場となり、彼に求められ、迎え入れられるはずだった。

 しかし現実は思い描いていた通りにはならなかった。
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