瞳に印を、首筋に口づけを―孤高な国王陛下による断ち難き愛染―
「そうだな。お前の求めるものは別だったな」

 なにやら勝手に結論づけられたが、レーネ本人は話が読めない。続いて目が合ったかと思えば、軽く唇が重ねられた。

 驚く暇もなく頬に手を添えられ、触れるだけの口づけが繰り返される。そしてキスの合間に頬にあった手がおもむろにレーネの首筋から鎖骨を滑り、肩を撫でる。

 焦らすような触り方はわざとだ。声が漏れそうになったところで口づけは終了し、クラウスはレーネの首元に顔を埋める。

 彼の次の行動を予想して、レーネはぎゅっと目を瞑った。ところが相手はそのままの姿勢を崩さない。

 あきらかに様子のおかしいクラウスにレーネは問いかける。

「もしかして……体調が悪いのはあなたの方じゃない?」

「悪くない。少し疲れているだけだ」

 どう違うのか。ぶっきらぼうな回答に呆れつつ、まるで子どもみたいな返答に毒気を抜かれる。

 クラウスはさらにレーネにもたれかかり、ゆるゆると彼女の膝に頭を乗せた。なし崩しに膝枕をする格好になり、レーネは気まずそうに尋ねる。

「とりあえずベッドで横になったら?」

「このままでいい」

 短く返され、レーネは押し黙った。洋燈に照らされているとはいえ夜の部屋で気づかなかったが意識して見ると、たしかにクラウスの顔色はあまりよくない。

 私のそばにいる限り、心安まるときがないのは彼も一緒なのかもしれない。

 だとしたら矛盾している。この体勢も、この状況も。乗せられた男の頭の重みと柔らかい髪の感触に太股が熱を帯びていく。
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