瞳に印を、首筋に口づけを―孤高な国王陛下による断ち難き愛染―
「損ねた妻の機嫌を取るのは夫の役目だ」

 なにをされるのかととっさに身構えたが、次の瞬間レーネは王の腕の中にいた。

「……そうやって無理をさせていたんだな、ずっと」

 打って変わって優しく労る声遣いに、レーネの心が波打つ。その反面、密着した箇所から伝わる体温は、ひどくレーネを安心させた。

 同情や憐れみなのかもしれない。それでも頑なだったなにかが溶けていく。黄金の瞳を何度か瞬きさせ、少しだけ体の力を抜くとさらに強く抱きしめられた。けれど嫌ではない。

 さすがに相手の背中に腕を回せるほど従順にはなれなかったが、レーネはおとなしく身を委ねた。

 ほどなくして腕の力が緩められ、レーネが軽く身動ぎすると、クラウスがそっと彼女の形のいいおでこに自分の額を重ねる。

「実際、難しいな。お前の……妻の機嫌を取るのは」

 珍しく参ったという彼の面持ちにレーネは戸惑う。不敵で、上から目線で、余裕に満ち溢れているいつもの国王の姿からは想像もできない。

「……いい。私、妻らしいこと、なにもしていない」

 動揺を悟られたくなくて、目線を下に向けレーネは答えた。

「そうか?」

 しかし相手からは疑問の声が上がり、レーネはゆるやかにクラウスに視線を戻す。

「こうして、なんだかんだ言っても夜を共に過ごしているだろう?」

「それは……」

 どこまでを含んでいるのか。真面目に返された分、深追いしづらい。言葉に(きゅう)しているレーネにクラウスはひとり納得した表情になる。
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