瞳に印を、首筋に口づけを―孤高な国王陛下による断ち難き愛染―
「本当に終わらせたいですか?」

 どうでもいいと投げやりになっている神子にカインは真顔で尋ねた。

「カイン?」

 いつもは呆れて(いさ)めてくる彼が珍しく真剣な面持ちだ。

「終わらせる方法がないわけではない」

 先が読めた神子は脱力し、わざと肩をすくめ言葉を継いだ。

「ええ、知ってるわ。契約時に神様が言ってたから。誰か他の人間にこの力を渡せって」

「その具体的な方法まで覚えていますか?」

 おどける神子に対し、カインの声の調子は変わらない。

「それは……」

 急に歯切れ悪くなる神子にカインはしばらく待つように告げた。神子はだらしなく姿勢を崩し高い天井を仰ぎ見る。

 神託を受けるためにと仰々しい建物が作られた。しかし実際に彼女が神と呼ばれる存在と契約を交わしたのは一番最初だけ。

 あれからここでなにを祈ろうと、願おうと変わらない。あるのは積み上げられた膨大な記憶から得られた経験則と知識だけだ。

「お待たせしました」

 神殿の奥から現れたカインに体勢を戻さず視線だけを向ける。彼はやや古びた木製の長方形の箱を手に持っていた。片手で持てそうな大きさだが、彼は(うやうや)しく両手で抱えている。

「なに?」

「あなたがよく知るものですよ」

 怪訝に尋ねるもカインは表情ひとつ変えず、神子の前に(ひざまず)く。

「どうぞ。あなたに返すときがやってきました」

 緊迫した空気に神殿内の温度が心なしか下がる。神子は息を呑んで慎重に箱に手を伸ばした。
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