瞳に印を、首筋に口づけを―孤高な国王陛下による断ち難き愛染―
 おそるおそる蓋を開け中身を確認し彼女は青ざめた。

「どうして!? どうして、これを?」

 激しく狼狽するのも無理はない。箱の中には黄金色の短剣が収められていた。

 本物かどうかなど疑う余地もない。見た瞬間、電流に似た記憶の雷が体を打つ。遙か彼方、神と契約を結んだ際に自身に振り下ろされた金の刃に思わず身震いした。

「私が先祖が、何代も前のあなたから話を聞いて、この短剣を密かに探し出していたんです」

 神子は短剣からカインに視線を移す。

「いつか神子さま本気で終わらせたいときが来たら、これを差し出すようにと……」

「でも、どうして?」

 淡々とした口調に対し、神子はあきらかに動揺していた。カインの一族とは長い付き合いだ。けれど短剣の存在など今まで微塵も匂わせなかった。それを今になってなぜなのか。

「我が一族は主に口承で神子さまと我々に課せられた役目について語り継いでまいりました。その中で、あなたがずっと思い悩んでいることも」

 神子はわずかに顔を歪め、うつむく。自分の運命が変わらず繰り返されるように、カインの一族もまた生まれたときからその宿命を背負わされている。本人の意思など関係ない。

「終わらせるということは、あなた自身の手でこの短剣を誰かに突き刺すということです」

 そこまでする覚悟はありますか?

 そう続けられたのは現実か否か。
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