瞳に印を、首筋に口づけを―孤高な国王陛下による断ち難き愛染―
 かなり古い記憶まで辿ったので、神子は顔をしかめて頭を抱えた。今の自分は誰なのか、飲み込まれないよう自我を保つ。

 長い時を経て継続されている神との契約は、それなりの弊害をもたらしてきた。

 莫大な記憶を保持するためか、常に脳が休まらず生まれたときからほぼ眠れない。左目が金色で、ろくに眠らない女子の赤子という特徴で村人はすぐに神子の存在に気づく。

 また記憶を継承できるのは、最初に神との(ちぎ)りを交わした少女の血を引く者だけだ。

 だから彼らは神子の秘密を守るため、神子の存在を隠すため、あるときから一族総出でこの険しい山の中でひっそりと暮らすようになった。

 そうしているうちに神子の存在を村の中だけで囲い込んでいく。ところが神子の血を引く村の女性たちまで左目が金色になるという影響を及ぼしだしたのだ。

 こうなれば、村はますます外部との交流をすべて絶ち、閉鎖的にならざるをえない。

「私がいなければ……」

 皆、もっと自由になれる。いつからこの神子としての人生を繰り返し生きてきたのか。

 特別扱いされていいことなどなにもない。来世も同じ生き方をするとわかっている。まして体は普通の人間と同じだ。眠れない体質は確実に体を(はば)み、長く生きられない。

 この人生も二十歳過ぎまでがいいところだろう。この苦行は永遠に続くのだ。

 それを選んだのは他でもない自分自身で誰も責めることはできない。しかし自分以外の者にまで影響を及ぼしているとなると話は別だ。
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