瞳に印を、首筋に口づけを―孤高な国王陛下による断ち難き愛染―
「だから、そんな気が起こるように迎冬会を開くんでしょ? たくさんの女性がいらっしゃるだろうからひとりくらいあなたお眼鏡に(かな)う人もいると思うんだけれど?」

「大きなお世話だ」

 温度差を感じずにはいられない応酬を終え、レーネは軽く息を吐いた。

「もちろん無理()いはしないわ。でも連日、花嫁候補を紹介されるのも飽き飽きしているんじゃないかと思って」

 それは図星だ。こういうときに感情論で押し付けないのはレーネらしい。ゲオルクはそれとなく水を向ける。

「……お前なら、どんな基準で伴侶を選ぶ?」

 質問される側になったレーネは律儀に考え込んだ。

「そう、ね。とりあえずひとつアドバイスをするなら、気位の高いあなたが(ひざまず)いてもいいと思える女性にしなさい」

 答えをはぐらかされ気もするが、この際はおいておく。ウインクひとつ投げかけるレーネにゲオルクは呆れ顔だ。

「お前はそうやって男を跪かせてきたのか」

「私のことじゃない。昔読んだ童話にそういう話があったの」

 真顔でレーネが答えた後、しばし間が空く。レーネが不審に感じたのとゲオルクが肩を震わせたのはほぼ同時だった。

 レーネとしてはまったく予期せぬ展開だ。驚くレーネに対し、目の前の男は口元に手をやり笑いをこらえている。

「な、なに?」

「いつもは確信をもってあれこれ自分のことのように語るくせに、恋愛においては子どもの童話からの高説か」 

「しょ、しょうがないでしょ。これは、すごく難しい問題で……」

 思わぬ指摘にレーネは早口で捲し立てるものの言葉尻を濁すしかない。
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