一億円の契約妻は冷徹御曹司の愛を知る

 ぽかんと私を見ている彼を、私は静かに見上げる。

「あなたのおかげで、私は目的を果たすことができました。お礼を言います。ありがとう」

 黙って私を見下ろす茶色の瞳は、いつでもまっすぐだ。ぶれることなく、陰ることなく、貫くほどの強さで相手を見る。

「あなたが私を選んだのは、お金持ちの戯れでしょう?」

 はじめて二條家に忍び込んだあの日、雅臣はすぐに私が『瀬戸口アキラ』の娘だと見抜いた。彼はもしかすると、あの絵を見たことがあったのかもしれない。そこに描かれていた母に、私はとてもよく似ていたから。

 そしてなにひとつもたない哀れな私に、雅臣は夢を見させてくれたのだ。八方ふさがりになって祈ることしかできなかった夢を、こともなげに叶えてくれた。

 それだけで、十分すぎるほど幸福だ。

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