一億円の契約妻は冷徹御曹司の愛を知る
「父が、唯一描いた、母の絵だから……」
声がかすれた。
あれこれ手を回して一億円なんていう大金を用意している時間はない。母に残された時間は、もうわずかしかないのだ。
『あの絵を、もう一度見られたら……』
お化粧やお洒落をしなくてもたたずまいに気品があって、清楚な美しさがあった母。いくらでも再婚相手がいたのに、自分の幸せには見向きもせず私だけを優先して生きてきた母が、唯一望んだこと。
私はそれを、どうしても叶えてあげたい。
ぎゅっとこぶしを握り締めて、目を上げる。
普通に生きていたら、きっと私は彼の視界にすら入らない。住む世界の違う相手を、まっすぐ見つめる。
「お願いします。あの絵を……買い戻すのが無理なら、一度だけ。貸してください」