一億円の契約妻は冷徹御曹司の愛を知る
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母が入院している総合病院の入院棟は、よく言えば趣のある外観をしている。歳月と風雨にさらされたビルはじっくり見ると小さな亀裂が走っているし、地面から数十センチくらいまでの壁面は苔だかカビだかがでうっすらとくすんでいる。
お金を作って早いうちに転院させたいと思っていたけれど、そんな場合ではなくなってしまった。
「愛、おつかれさま」
母は六人部屋の窓側にある自分のベッドに腰かけていた。スリッパを脱ぎかけた体勢で、優しく微笑む。
「今日は体調がよかったから、少し庭に出てたのよ。それにしても陽がのびたわねぇ」
ひとつずつの動作の合間に息をつくようなゆっくりした動きでベッドに横たわる母を手伝い、私は全開になっていた窓を少し閉じた。