一億円の契約妻は冷徹御曹司の愛を知る
「暖かくなってきたからって油断したら風邪ひくんだから。ほら、靴下穿いて」
「はいはい」
ひとりの人間の生活用品が入っているとは思えないくらいの小さな引き出しから靴下を取り出して渡すと、母は困ったように笑った。
「愛は本当、しっかり者ねえ」
穏やかに言う母から目を逸らし、私は「やっぱり今日はちょっと冷えるね」と窓を閉めた。
一週間前に受けた余命宣告のことを、彼女はまだ知らない。担当医師も私の頼みを聞いて黙ってくれているみたいだ。
だけど、母は気づいているような気がしてならなかった。
なにも聞かなくてもなにも見なくても、自分の命にわりと明確な期限があって、音もなく終息に向かっていることを。
「ごめんね、愛」
ベッドに横たわった母がぽつりと言って、私は目を丸める。