一億円の契約妻は冷徹御曹司の愛を知る

 そんなふうにいつでも私のことばかり考えてくれる母が、唯一自分の望みを口にしたのは三年前の春のことだった。入院生活に張り合いをもたせるため、私が持ち込んだノートにやりたいことを書いてもらっていたときだ。

 そのとき母は、りんごが食べたいと短く書いただけでペンを止めてしまった。

『改めて考えると難しいわね』

 苦笑する母にどうにかこうにか望みを書かせようとしたけれど、多くを望まない彼女は結局、それ以上何も書かなかった。

 でもひと言だけ。ぼんやり窓の外を眺めながら言ったのだ。

『あの絵を、もう一度見られたら……』







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