一億円の契約妻は冷徹御曹司の愛を知る

 派遣社員だからか、業務外にあたるお茶くみはこれまで頼まれたことがなかったけれど、仲良くなった女性社員が淹れているところは何度か見たことがあった。

 棚や冷蔵庫に占領された狭い給湯室に向かい、急須や茶托を探しあててどうにかお茶を淹れる。指示された人数分のお茶をトレーに用意し、誰もいないフロアを横切って応接室のドアをノックした。

「失礼します」

 さほど広くはない部屋には、三人掛けのソファと一人掛けソファ二脚がセンターテーブルを挟んで配置されている。

 運び慣れていないお茶がこぼれないように気を付けながら身をかがめ、テーブルに茶托ごと置こうとした瞬間、目に入った顔にぎょっとした。

 湯飲みが滑り落ちて、耳障りな音を立てる。こぼれたお茶がテーブルの上にあっという間に広がる。幸い割れてはいないようだけれど、そんなことを考えている余裕はなかった。

「おい、なにやってるんだ!」

 マネージャーの声にはっとして、私は立ち上がった。

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