一億円の契約妻は冷徹御曹司の愛を知る
「すみません!」
「申し訳ありません常務! かかりませんでしたか」
マネージャーの言葉に「いや」と短く答えたその人は、恐ろしく顔が整っていた。石膏像のように彫りの深い目もとに、冷酷なくらいまっすぐのびた鼻梁。深い茶色の瞳が、私を見上げてわずかに細まる。
アンティークの調度品に囲まれた部屋が、脳裏に弾けた。その真ん中で悠然と脚を組んでいた彼が、どうしてここに――。
呆然としていると、背中をぽんと叩かれた。傍らに立った沢渡さんが、「今拭くものをお持ちします」と口にして、私を誘導するように歩き出す。
「あとは俺がやるから、愛ちゃんはもういいよ。今日も病院でしょ?」
フロアに出ると、沢渡さんは片目をつぶった。
「申し訳ありません……」
「いいっていいって。じゃあね」
給湯室に向かっていく背中にもう一度頭を下げ、私は振り返った。ドアが閉じた応接室からは、男性たちの声が響いていた。