一億円の契約妻は冷徹御曹司の愛を知る

 思い出されたのは、事務所で焦った顔をしていた沢渡さんだ。私をミーティングルームに押しこんだ彼が口にしていた言葉。

『常務って女グセが悪いって有名なんだ』

 革のシートに悠然と沈む二條雅臣に、「女好きだそうですね」とはっきり言うと、彼は切れ長の目をきょとんと瞬いた。それから「ほう」と眉を持ち上げて薄く笑う。

「俺に面と向かってそんなふうに言った女ははじめてだ。さすがだな」

「え……?」

 横目で私を見ていた彼は、どことなく楽しそうな口調で続けた。

「政財界との繋がりのために俺の結婚を利用しようと躍起になっていた親父も、ここへ来て根負けしたらしい。俺がいつ仕事を辞めて放蕩息子になってもおかしくないと踏んで、婚姻届けを出しさえすれば、相手が誰であろうと構わないことにしたそうだ。家名を汚されるよりはマシなんだろ。いずれにせよ、次期当主は長男の兄貴だしな」

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