一億円の契約妻は冷徹御曹司の愛を知る
「はい、申し訳ありません」
びしりと背筋を伸ばし、彼女は小さく舌を覗かせて私にウィンクしてみせた。ふたりのやりとりにきょとんとしていると、正面の御曹司様が「まったく」と唇の端を微かにゆがめる。
「緑がないところが苦手なんだ。マンション暮らしなんて理解できない。あんな四方八方をコンクリートに囲まれた塔で、どうやったら安眠できるんだ」
「もしかして、高いところが苦手なんですか?」
「違う。高層ビルが嫌いなだけだ」
ムキになってコーヒーをすする姿に、思わず吹き出してしまった。じろりと冷たい目で睨まれたけれど、ふて腐れている子どものようにしか見えない。
「なるほど、そうだったんですね。ちょっと意外です」
「だから俺は」
「はいはい、わかりました雅臣様」