一億円の契約妻は冷徹御曹司の愛を知る
「好きなものを描けばいい」
まっすぐ見つめられて、ぐっと息をのみこんだ。
この人、私が気分転換をしたがったから、わざわざ絵の道具を用意してくれたんだ。そう思うと無下に突き返すこともできない。
「好きなもの……」
一人がけソファに腰を落とし、鉛筆を握り直す。
他人が描いた絵を見るのは大好きだけど、自分が描くとなると話は変わる。スケッチブックに向かうなんて、中学生のときの写生大会以来かもしれない。
真っ白な紙の上にイメージを膨らませていると、少しずつ気持ちが沸き立っていく。それから私はゆっくりと鉛筆を走らせた。
自分でも意外なことに、だいぶ集中していたらしい。はっとして紙面から目を上げると、隣のソファで本を読んでいた雅臣がページをめくる手を止めた。
「できたか」
「はい。思いのほか力作になりました」