一億円の契約妻は冷徹御曹司の愛を知る

「偉そうなことを言ってて、自分だってド下手じゃない!」

「なんだと!」

 もう片方の手も伸びてきて、今度はしっかりと両側の頬を掴まれてしまった。長い指にぎゅっとつままれ、口もとを勢いよく真横に引っ張られる。

「旦那様に向かって偉そうなセリフを吐くのはこの口か!」

「いたたた」

「……なにをやっているんです」

 背後から呆れたような声が聞こえた。振り向くと、白髪交じりの頭髪にメガネとスーツを着用した五十歳手前の男性が立っている。

「坂城さん!」

 いつ見ても隙のない風貌の彼は、この二條家における使用人の取りまとめ役であり、事務方全般を請け負っている人物だ。真面目で優秀で厳しいけれど優しくて、嘘をつかない人、と評していた楓さんの言葉を思い出す。

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