負け犬の傷に、キス



正面玄関に入って左手奥の部屋。

ケガ人を手当てするための部屋だそうで、看護室と呼ばれてるらしい。



その部屋で希勇くんとふたりきり。


パイプイスを向かい合わせる。

慣れてる消毒液のにおいが漂う。




「ケガしてるの、ほっぺと手だけじゃないよね?」


「いっ……!!」




すり傷のついた手の甲に、消毒液を染み込ませたコットンを押しつける。

涙目になりながら希勇くんはこくこく頷いた。



……だと思った。




「どこ?」


「腹と背中を、ちょっと……」


「見せて」


「え」


「いいから」




目尻をつり上げれば、逆に希勇くんの目尻が垂れ下がった。




「親子だな……」


「え?」


「ううん、なんでもない」




しぶしぶ白シャツのボタンに手をかけた。

苦笑しながらはだける。



初めに目が留まったのは
うすく青くなってるお腹の横あたり。


その次に

ほどよく筋肉のついた体になじむ、無数の傷痕。



最後に視線を合わせた茶色い瞳は、弱々しく細められた。



今さらこんなことで驚かないよ。

帰りを待ってたときのほうが苦しかった。


だけど苦しくないわけじゃないんだよ。


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