負け犬の傷に、キス



「……バカ」


「え!? バカ!? なんで!?」




想定外の悪口に希勇くんはショックを受けてる。


バカはバカなの。

まったくもう。



実際に目の当たりしたら、涙のひとつもあふれない。

全然泣けないよ。



希勇くんの胸板にこつんとおでこを当てた。




「……栞にもっとパワーこめればよかった」




そしたら、もしかしたら。

新しい傷ができなかったかも。




「十分助かったよ! お守り!」


「ほんと?」


「ほんとほんと! 力くれたよ!」




お世辞だってわかってる。

希勇くん、バカなくらい優しいから。



これじゃあ機嫌とってもらってるみたい。


わたし年上なのに。

本当はお姉さんらしく振る舞いたいのに。



希勇くんの前だとわがままになっちゃう。




「お守り貸してくれてありがとう」




ゆっくりと顔を上げたわたしに栞を手渡し、にっこり笑う。


わたしもつられて口の端がほぐれる。



電灯に反射して真っ赤な花弁がきらめいた。




「……傷、いつもより少ないほうなの?」


「うん」




悩むことなく即答され、少しびっくりした。




「途中から逃げるのをやめたから」


「それって……」


「みんな、俺を信じてくれたんだ」




覚悟を決めたような凛々しさ。

“総長”の顔だ。



すっきりした様子だったのはそういうことだったんだ。


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