負け犬の傷に、キス



『総長は総長でも、いっつも敵から逃げてばっかで……ついには“負け犬”なんて蔑称までついたんですから』



出会って間もないころから悩んでいたのを知ってる。


洋館に出入りするようになって、希勇くんと下っ端さんたちがギスギスしてることはすぐに察した。



暴走族の世界のことは、今でもよくわからなくて。

安易に立ち入らずに見守るしかなかった。



けど……そっか。

仲直りできたんだね。




「だから……だけど、傷が痛むんだ」




太ももの上で握り締められた、大きな右拳。

骨の出っ張ったあたりが赤くすれていた。


その“痕”を見据える眼差しがゆらゆら泳いでる。




「でも、」




つと希勇くんと目がかち合う。




「夕日ちゃんが治してくれるんだよな?」


「うん、どんな傷でも」




右拳の“痕”を静かに撫でた。

そして手のひらで包んでいく。



治してみせるから、だから、痛いときは教えてね。


優しさゆえの秘密は嫌だよ。





「あのさ、夕日ちゃん」




ひと通りの手当てを終え、お礼を伝えてくれた希勇くんはこそばゆそうにもじもじし出した。




「戦いに行く前に俺が言ったことおぼえてる?」


「え?」


「……つ、続き、の、こと」


「!!」




片付けていたガーゼを落としそうになった。

甘い余韻がよみがえってくる。




「俺、ちょっと疲れたから……いやしてほしいなあ、なんて」




だめかな?と下手に出られれば断れない。


ううん。
最初から断る選択肢なんかなかった。




「だ、だめじゃ、ないよ」




どちらともなく赤面した。



おそろいの熱を持った唇をためらいがちにくっつけては息継ぎをして、また熱を奪い合う。


ひりついた痛みにすら甘みがあって、愛さずにはいられなかった。


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