負け犬の傷に、キス
俺だって弱かったんだ。
「当時遊んでた人から“薬”をもらったの。いけないことだってわかってたわ。だけど……それを使ったら心が楽になったの。そのときだけはたしかに救われたのよ。夫に叱られてやめようと努力した。でもやめられなかったわ」
「それで離婚を……」
「ええ、そうよ。本当に独りになってしまったけれど“薬”を手放せなかった。苦しさも、後悔も、“薬”がいっとき忘れさせてくれたから」
博くんたちの殺気は、うすれるどころか濃くなっていく。
殺気に耐えきれなくなったように、黒縁メガネがうつむいた。
「そんな、依存しかけてたときだったわ。カウンセラーに来た生徒に“薬”を渡したのは。ただの気まぐれだった。
でもね、その次の日に生徒がまた会いに来て、ありがとう、救われました、って。喜んでくれたのが嬉しかったわ。慕ってくれるようになったのがわかって、初めて“薬”以外で救われた気がしたの」
メガネの女性は自ら、夕日ちゃんの両手から自分の手を抜き取った。
支えをなくし、だらんと垂れ下がる。
「“薬”を渡すようになって、いつの間にか不良くんたちと関わることが増えていったわ。不良くんたちも苦しんでいた。だから救いたかった。そうすれば味方になってくれた。
それであたしも救われるの。独りじゃないと思えたの。……だから、あたしには“薬”が必要だったのよ」
「救い? 味方? ……んだよそれ」
バンッ!!と床が竹刀をはじいた。
「ふざけんなっ!!」
ユキはメガネの女性の正面まで詰め寄った。
力の抜けきった左手を強く握りしめる。
グイッと上に引っ張り、爪を立てた。