負け犬の傷に、キス


強引に顔を上げさせられたメガネの女性は、憎悪をじかに浴びて絶句する。

痛い、とうめき声すら漏らせない。




「悲劇の主人公ぶってんじゃねぇぞ! てめぇの自己満足でどれだけの人生が狂わされたと思ってんだ! 死のうとしたヤツもいるし、本当に死んじまったヤツだっているんだぞ!!」


「っ……!」


「てめぇがやってんのは救いでもなんでもねぇよ! 洗脳だ! 弱りきったところにつけこんで、人を壊してるだけなんだよ!!」


「ぁ、……や、め、」




なんとか抵抗しようとメガネの女性は左腕を大きく振る。



勢いよくユキの力から離れた

刹那


薬指にはめていた指輪も取れてしまった。



キラリときらめきながら
きれいな放物線を描いて飛んだ指輪を


博くんが掴み取った。




「それ……っ、返して!」


「本当に救われていると信じていましたか? 見て見ぬフリだったんじゃないですか?」




悲痛な叫びを無視して、博くんは指輪を電灯にかざした。


小さな宝石のカラットを観察してからもてあそぶ。

投げてはキャッチを数回繰り返した。




「ずっとそうしていればいい。勝手に苦しんでればいいんですよ。どうせ“薬”じゃ救われません。救われたと感じるのはまやかしです」




再び投げた指輪を


――カタンッ


わざとフローリングに落下させた。



宝石のついたところがわずかに欠ける。




「それにすがっているなんて……かわいそうな女だ」




敬語をやめた博くんに温度も感情もない。



容赦なく指輪を踏みつけた。

耳ざわりな音が響く。



博くんの足がどかされたところには、指輪だった物の残がいだけが残っていた。


もう二度と輝かない。




「大切なものを傷つけられた苦しみがわかったか」



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