ワケあり花屋(店長)とコミュ障女子の恋
凌駕も、ポップを手にして少し黙る。
懐かしい姉の文字。

ふと視線を海に移すと海は花かご作りに集中していた。
というより、集中してみないようにしている。

まだ、店のいたるところに香菜との思い出が残っている。
その思い出を直視できずにしまい込んでいるのが、今の海だった。

凌駕も姉の死を乗り越えたわけじゃない。
それでも海よりは前に進めるような気がしているのは、亡くなった原因に海が密接に関わっているからで、だからこそ、海はまだ姉の死を受け入れてもいないのだと凌駕は思っていた。

「・・・これなんだけど」
凌駕がなんと言っていいかわからずに椿に話しかけると椿はぎこちなく微笑みながらカードを受け取った。
「大切にしまっておきます」
椿はもう一度手にしたカードを、大切に箱にしまった。
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