【BL】近くて遠い、遠くて近い。
皆の元へ戻る途中、
下の階から喧騒が聞こえ出すと
ナオくんは一言も発することなく
組んでいた肩をそっと離した。
無言のまま階段を降りていく彼の表情を
怖くて見ることが出来ない。
「おーう、おかえりー」
1階で既に待ち伏せていた山下が、
一番遅れるはずだった田口くんと一緒に
こちらを見上げてニヤニヤしている。
なにも、面白いことなんてなかったんやけど…。
「あれ…ヒイロなんか唇テカテカしてへん?」
「えっ!?」
先程の思い出したくない光景が過ぎる。
中原さんのリップだ…。
慌てて袖口で口を拭い、
冷や汗をかきながらナオくんに目をやると
田口くんと一緒にイタズラな笑みを浮かべていた。
いつもの、ナオくんだ。
アレは…見られてなかったのか?
4人揃って自然と足を昇降口の方へ進めながら
晴れない気持ちを腹の底に閉じ込めた。
「キスでもされたんか?」
「ばっ…!」
山下はこういう時、
空気というものを読まないものだ…。
いや、鈍感やし、仕方ない…。
「ほーらほら、弄りはその辺にして、
とりまカラオケ行くべー」
田口くんのさり気ないフォローで
なんとか山下のからかいを避けたものの、
一瞬見えたナオくんの横顔が
無に近く見えるほど悲しみに満ちていて
「………ナオ、くん…」
「…………」
胸がキリキリと
避けるように痛んだ。