【BL】近くて遠い、遠くて近い。
タバコ臭い部屋の中で
エコーの効いた流行りの邦楽が大音量で響いている。
「次なに歌う?」
ナオくんと山下が
二人でマイクを独占し熱唱している最中、
田口くんが
飲み物を片手にオレの隣へ腰掛けた。
そもそも音感どころかリズム感もないオレは
カラオケに慣れていないだけでなく、
マイクで自分の声が響くのに
恥ずかしさと煩さで頭痛がしていた。
ナオくんの歌声さえ聴ければそれでええんやけど。
「あ、オレは…そろそろ聞き専に戻ろうかと」
「あかんあかん、まだこれからやねんから」
「えぇ…」
リモコンを手渡してくる田口くんに
苦笑いを返しながら、
適当に履歴一覧を流し見る。
「…で、告ったんか?」
「えっ…」
リモコンにやっていた目を田口くんに向けると、
《 佐野原に 》と口パクをして見せた。
オレは小さく頷いたが、
田口くんは腑に落ちない顔をしている。
「なんや、…ダメやったんか」
「………いや、」
「ほう、ほな良かったやん、おめでとう。
………っても、あんまり嬉しそうやないな」
「…………………」
本人は熱唱中といえど、
あまり大きな声で話せるような内容ではない。
言葉に迷っているオレを見兼ねてか、
田口くんは携帯をいじるフリして
オレ宛にメールを送ってきた。
『なんかあった?』
あくまで、ただ携帯をいじっているだけの素振り。
歌っている本人たちの気を悪くしないよう、
時には適度に盛り上げながらスマホに目をやる。
【あった。かなり最悪】
短文でのやり取りだが、
正直気持ちが救われる思いだった。
どうしていいか分からなかったから。
早く誰かに相談したかったし。
それにメールだと話しやすい。
田口くんの心遣いには、本当に感服している。
『中原さん?』
【なんでわかったん】
『唇についとったんグロスやろ?』
【うわっ、さすがっす】
『それで佐野原キレたんか?』
【たぶん…】
『へーーーすでにお熱いのですね』
【でも、中原さんが
オレのこと好きとか知らんくて
呼び出されたのも急やったし】
『一体その状況でどうやって佐野原に告白してん』
【・・・実は、昨日から】
「はっ!?!?」
突然、マイク越しの歌声よりもさらに大きな声が轟いた。
熱唱していた二人は何事かとこちらを見た。
田口くんの方に目をやると、"やばっ"と口元を抑えて
「すまん、なんでもない」
と、目を見開いたまま再びスマホに視線を落とした。
ナオくんと山下は互いの顔を見て首を傾げては
そのまま1曲歌いきり、
それぞれの位置へ腰掛けている。
…びっくりした。
田口くんもそんなにびっくりせんでも…。
こんなん田口くんに相談してるん
ナオくんにバレたくないねんから…。
「ヒイロは歌わへんの?」
「オレはー…ちょと休憩、山下歌いや」
「俺もきゅうけーい」
山下が背もたれにだらけて
ポテトを頬張り出すと、
ナオくんがすくっと立ち上がって
スタスタと出口に向かった。
「俺はションベンタイム」
そう言い放つと
こちらを向くことなく
扉の向こう側へ出て行ってしまった。
やっぱりまだ…怒ってるんかな…。
「ヒイロも今のうち行ってきたら?」
「えっ」
真顔でこちらを向く田口くんが
顔で扉の方を指している。
「さっきトイレ行きたい言うてたやん」
そんなこと一言も言っていない。
田口くんはオレとナオくんに
少しでも二人で話す機会を作ろうとしているのだ。
ありがたいような…ありがたくないような…。
でも、ここは勇気を出して
ナオくんと直接話すしかない。
「そ、そうやな…ありがと」
「おう、しっかり出しきっといで」
「きたねぇww」
そう、ケラケラと笑い合う二人を後にし、
他の部屋から重低音がこだまするトイレまでの廊下を
重い足取りで進んでいった。