【BL】近くて遠い、遠くて近い。
男子トイレの扉が見えたと同時に、
中へ入っていくナオくんの姿が目に入った。
連れションという行為は初めてではないが、
ナオくん相手はさすがに初めてだ。
好きな人が用を足す場面なんて
自分が恥ずかしすぎて見ていられない。
ナオくんが出てくるまで待っていようか、
とも思ったけど
ここは…、一歩踏み出して
思いきりナオくんに迫ってみようと
自分を奮い立たせた。
ガチャッ…
扉を開けると、
小便器が並ぶ狭い空間に
ぽつんとナオくんが立っていた。
「…え、お前も?w」
「や、う…うん、まぁ…」
やっぱり…待ってた方が
良かったかもしれない。
既に用を足し始めているナオくんには
一切目を向けず、
隣の便器をひとつ飛ばした場所で
見られないよう恐る恐るファスナーを下ろした。
まったくそのつもりがないのに
便器の前に立つと意外と催すものだ。
用を足しながらオレは
気まずい沈黙の中、何から話そうか
そもそも何を話そうか、
ひたすら脳を動かして考えていた。
「なんか…はずいわ」
横でボソリと呟いたナオくんの声が
痛く耳に刺さった。
「ご…ごめん…」
「…………いや…」
「オレも…恥ずかしすぎる…」
言いきらないうちに
下腹に力を込めて早々に出し切り、
そそくさと自身をしまい込んで
早足で洗面所へ向かった。
ここはカラオケのはずなのに、
トイレの中は酷く静かに感じた。
「ほんと、ごめん、オレ先戻るわ」
沈黙に耐えられず、
1人で戻ろうとした時だった。
「ヒイロ」
案の定呼び止められ、
オレは手にかけていたドアノブから
怯えながらゆっくりと指を離した。
「ちょい待ってな」
便器を流した音がしたかと思えば、
背後の洗面所からジャバジャバと雑に
手を洗う音が聞こえてくる。
待たされている時間が怖い。
後ろ向けない。
何されるんや。
何を言われるんや。
ナオくんの声色からは想像つかない。
怖い。
「期待したん、俺だけか」
「え、」
ジェットタオルで乾かしたばかりの手で
オレは腕を引かれ、
気付いたら個室トイレの中にいた。