【BL】近くて遠い、遠くて近い。






「証拠……?」





こんなに好きなのに、
これ以上どうやって伝えたらいいのだろう。


皆目検討もつかないとはこのこと。





「……いや、ヒイロって結構控えめやし?」


「そ…そう?」


「もっと…なんっ、つーか……」





言っている本人も
自分で言っといて困惑しているようだった。

ただ、言い難いことなのかもしれないと
その顔から察することが出来る。





「積極的に、って…こと?」


「………………まぁ…」





急に口数が減った彼の瞳は泳いでいて、
一切オレと焦点を合わせようとしてくれない。

もどかしくて、でも、
それが可愛らしくて。

ナオくんが、オレを
欲してくれている気がして。

触れるのを
求めてくれている気がして。





「じゃ…、もっと…していい?」






ぎこちなく震える手を
するりとナオくんの首へ巻き付けた。





「えっ…いま…?」


「だって…ナオくんが言うたやんか…」


「せやけど…」


「…嫌?」





じっと目を見つめて、
彼が納得するのを待った。

まだ、男同志という躊躇いがあるのか、
ナオくんは眉間にシワを寄せて
目を逸らし続けている。

チラッとこちらを伺ったかと思えば
照れ笑いで誤魔化す。





「いや…、そんな…急に変わる?w」


「………あかん?」


「あかんとかやなくーーー」






巻き付けていた腕で
ぐっと彼の頭を引き寄せた。

必然的につま先立ちになり、
必死で唇を重ね合わせていた。

動かし方なんてわからない。
積極的なやり方なんてわからない。

ただ、ナオくんの唇から漏れる吐息で
頭を溶かし続けた。






「ひ、いろ…」


「ん…、」


「待ってって、」


「んん…っ」






小さく首を振って目を閉じたまま
ぎこちないくちづけを続けていた。

次第に、ナオくんは諦めたように
少しずつ受け入れてくれて
唇の力を抜いてくれるようになった。



嬉しくて、息苦しい。
上手く酸素を吸うことが出来ない。

キスって難しい。



でも、きっとナオくんは
こうしたことに慣れている。



ナオくんがキスを受け入れてくれてから、
唇同士の綺麗な音が鳴るようになり、
柔らかく、滑らかな動きになった。



ナオくんはきっと、
キスがうまいんだ。







「ナオ、くん…っ」


「…ん……?」







何度も何度もキスを浴びせながら
腰に回された腕で
オレの身体をそっと撫でる。

服の上からの微かな刺激で
思わず身体が小さく震えた。






「っ………」


「……かわいい」


「か、可愛くな、…っ」






否定しようとした唇を塞ぎ、
ズボンに入れ込んでいたシャツを
おもむろに出して

直接、シャツの中でオレの肌に触れてくる。

立っていられないくらい
震えて浮いている足を必死に立たせた。

触れるか触れないかギリギリのところで
腰から背中までを指で何度も撫でられ、

鳥肌が立つほど
感じてしまっていた。






「んっ……こしょ、ばい…から、」


「……めっちゃ反応するやん」


「え…っ」


「俺もう結構やばいねんけどなぁー…」







小さく呟く彼の言葉は
しっかりと耳に届いていた。

何がやばいのだろう。
本当は、わかってるけれど。

そのまま、もっと、して欲しい。

でもこれ以上されたら、
色々と持たない気がする。

既に腰が抜けそうだというのに、
もっと、めちゃめちゃにされたら…。




想像するだけでも
切なくて、幸せすぎる。





「……くち、あけて」


「…?」





言われるがままに、
わずかに口を開けて空気を吸う。

すると、ナオくんは再び
柔らかい唇を重ね合わせ

とろんと伏せた目でオレを見つめながら
やけに濡れた舌を優しくねじ込んできた。





「っ!?」





先程よりも息が熱く感じる。

彼の舌はとうとう
小刻みに震えるオレの舌先へ辿り着き、

ゆっくりと唾液を絡ませて
ズルズルと離れていった。





「ん……はぁ…っ」





初めての感触と快感に、
ついつい堪えきれない声が吐息と共にこぼれる。

舌から全身へ電気が走ったように
ビクビクと身体が不本意に鳴いていた。



何度も何度も何度も何度も、
ナオくんは同じことを繰り返す。



オレの身体が喜んでいるのを
もう分かりきってるんだ。





「ヒイロ…っ」


「ん…んっ、」





次第に激しさを増す唇から
舌が絡まるいやらしい音と
快感故に上擦った声が漏れはじめる。

やがて、彼が
オレのズボンに手をかけた時だった。






ガチャッ

「おーいヒイロ、うんこかー?」


「っ……」






きっと、あれから相当な時間が経っている。


互いを求める欲求を止められず、
山下がトイレへ様子を見に来るまで続いていた
色濃く幸せなひとときは、
儚くも既に終わりを迎えようとしていた。





「ち、ちょい…腹壊したかも…」


「まじかー、てか佐野原どこ行った?」





ナオくんは相変わらずキスをせがみ、
悪戯心なのか、わざと
首筋や耳に口付けをして
オレの声を出させようとしてくる。





「んっ…ぁ」


「どした、そんな腹痛いんか」


「ごっ…ごめん、後で戻る、から…っ」


「おー、大丈夫か」


「大丈夫…っ、…ナオくんは
外で電話してるから、も少し歌っ…てて…っ」


「あっ、電話か。分かったー」


パタンッ







そうして、再び
静かな二人の空間へ戻った。







「……続きは帰ってからな」







彼はそう微笑みながら、
未だ余韻に浸っているオレを便器に座らせ
一足先にトイレを後にした。





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