忍君のセカンドラブ~歳の差30歳以上~
そんな雪を忍はそっと抱きしめた。
「…良かった、また会えて…。また会えるって、信じてすっと探していた…」
「ごめんなさい。…一緒にいたかったけど…忍さんに迷惑がかかると思って…。そのまま、自分の世界に帰ったのですが。暫くして、愛がお腹にいる事が分かって。…何とか、1人で産みましたが。やはり、忍さんの子供なのでお返ししようと思って。忍さんの家に向かっていたのですが、途中で車にぶつかてしまって。自分の名前も、愛の事も忘れてしまったんです…」
「そうだったのか。もういいよ、こうして会えたんだから」
「ごめんなさい…あの時、忍さんに出会ってしまったから…私…」
泣き出してしまった雪を、忍はそっと慰めた。
「あの出会いを、責めたりしないでくれ。私は何も後悔していない。いなくなっても、ずっと気持ちは変わっていないよ」
「私…人間ではありません。…妖精界の妖精です」
「妖精? 幸喜が言っていたのは、本当だったんだな」
「幸喜君は、不思議な子で。全部、見抜いていたようです」
「そうだな。でも、妖精だってなんだって私の気持ちは変わらないよ。だから、これからは一緒にいてくれるか? 一緒に、愛を育てて行こう」
「…私、愛のお母さんになれますか? 何もできないし…」
「特別な事なんて、何もいらないよ。この世でたった一人の、愛のお母さんだよ。それに、1人じゃない。私もいるんだ。何も心配いらないから」
胸がいっぱいになり、雪は何も答えられなくなり、そっと頷くしかできなかった。
その後。
冬季が雪を迎えに来た。
雪は記憶が戻った事を冬季に話した。
「そっか…思い出せたんだね。それは良かった」
ちょっと痛い笑みを浮かべた冬季。
「私、もう貴女とは一緒にいれません。なので、ここでお別れします」
「判ったよ。じゃあ、僕からの餞別として雪の名前はそのまま君に譲るから。この先も、雪の名前が必要なら使えばいいよ」
「え? そんな事したら、雪さんが困りますよ」
「いや。幸はもう亡くなっている。でも僕は、雪の死亡届は出していない。死んだことを認められなくてね。幸はもう両親もいないし、親戚も誰もいないと言っていた。お骨は永代供養に頼んであるから。何も心配しなくていいよ。雪だって、君が名前を名乗る事に賛成してくれると思うから」
「そんな…私…」
「大丈夫だよ。君を幸せにしてくれる人が、ちゃんといるだろう? 」
「はい…」
こうして冬季は潔く雪に別れを告げて、そのまま去って行った。