お嬢様と呼ばないで
「でも。辞めさせるのは」
「……そんなのダメよ!おじいちゃん!」
着替えを済ませていたバッチリ話を聴ていた美友は、怖い顔で祖父に向かった。
「おじいちゃん……腐ったみかんて言ったわね」
「ああ。言った。あいつは腐ったみかんじゃ」
美友は口を真一文字に結び岩鉄爺さんを見た。
「箱の中のみかん。確かに悪くなるものあるわ。でも、それは誰も食べなかったからよ……」
「美友や?……」
涙目の彼女は爺さんをキッと睨んだ。
「誰かが見つけて食べていたら。腐らずに美味しく頂いていたはずよ?腐ったのはそれをしなかった大人のせいよ!!」
「なんと?」
美友に指差されて説教された岩鉄はこの言葉にがガーンとなっていた。
「まあ、言われてみればそうだな。この場合は先生ってことか」
「そうよ!疾風君の言う通り!それなのに捨てるだけなんて……そんなの教育でもなんでもないわ!人を集めて腐らせるだけなんて」
「……集めて?腐らせるだけ……」
「おい、爺さん大丈夫か?」
孫娘の言葉を受けた岩鉄は、こんな風に叱られるのが亡き母以来だったので嬉しくでちょっとドキドキしていた。
「お爺ちゃん。ふくよか先輩はまだ腐ってないわ!だからお願い。活躍のチャンスをあげて」
「あんな腑抜けにか?……体がでかいだけで何も出来ぬ男だぞ」
「そんな人に光を当てるのが真の教育者でしょう!?ねえ!お爺ちゃん!ねえったら!聞こえないフリしないで!」
「く、苦しい」
「美友、バカ?首を締めるな!」
「はいはい。今日も仲良しですこと?さあ、お食事です」
お手伝いさんの千鶴さんはいつものようにこの空気を何も気にせず料理を出した。
「そうだ。美友さんはチャーハンを作るんでしょう?」
「そうだった?おじいちゃんは食べていてね!疾風君は喉に詰まらせないか見てて!」
「うるさいわ?」
うらら学園は岩田一家で運営し、岩鉄の長男、次男がそれぞれ社長、副社長をしている。またそれぞれの配偶者は教育関係者であるので経営は万全であった。
そんな美友は、母親が岩鉄の長女である。
彼女はうらら学園を建築した桜田と結婚し、美友を儲けた。
桜田は世界で三本指に入る建築工事の達人であり、彼がいないと外国の大きな橋が建築できないくらいの重要な人物だった。
しかし娘の療養のため日本にしばらくいた父は娘の改善をもって世界のラブコールを受け外国の工事に出発した。
母は美友のそばにいようとしたが、母に依存せず自立したいと言う娘に負けて父とともに異国へ旅立ったのだった。
こんな美友は頑固で誰も一緒に住んでくれない岩鉄の家に一緒に住んでおり、家政婦のおばさん千鶴と仲良く暮らしていたのだった。
「チャーハンできたけど」
「おう!」