……秘密があります
「だから、羽未がひどいと言ったのは俺のことだ」

「羽未がお前のことでなにを泣くことがある」

「俺が昔、こいつの白い猫を綺麗にしてやろうと思って、洗濯機に入れたからじゃないのか」

 ひい、と皆が凍りついたので、士郎は、
「いや、ぬいぐるみだよ、ぬいぐるみ」
と慌てて言っていた。

 そうなのだ。
 あれは私のお気に入りのぬいぐるみだった、と羽未は思い出す。

「やたら胴の長い白い猫だったんだよな」

 ダックスフンドじゃなくて? とみんなが士郎を見る。

「羽未が大事にしてたんだが、薄汚れてきたので、綺麗にしてやろうと思って、洗濯機に突っ込んだんだ。

 脱水がまずかったんだろうな……」

 一体、どうなったんだ、その猫という顔をするみんなの前で、
「今度は気をつけるよ」
と言って、士郎は羽未の肩をポン、と叩いてきた。

 いや、さすがにもう猫のぬいぐるみを小脇に抱えて歩くことはないと思うが、いつ、なにに気をつけるつもりなんだと羽未は思う。
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