……秘密があります
この間はちょっと芳賀を見習いたいと思ってしまったな……と思いながら、帯刀は職場の廊下を歩いていた。
あんな簡単に羽未にキスを迫れるなんて、と、
「いやいやいやっ、お前、それ以上のことをしてるだろうっ」
と言われそうなことを思う。
そのとき、給湯室から羽未たちの話し声が聞こえてきた。
「そうだ。
さっき、でっかい蜘蛛が出たのよ、此処」
と栗原阿佐子の声がした。
「あ~、蜘蛛ですか~」
と羽未は最初は呑気に話していた。
「ほらあの、手を広げたくらいのサイズのぴょんぴょん跳ぶやつ」
「……そ、それは苦手なんですよ。
なんであのヒトは人間めがけてやってくるんですかね?」
「人間好きなんじゃないの?」
「私は嫌いです……」
と羽未が固まる。
わかるぞ、羽未。
俺もあいつだけは苦手だ。
子どもの頃、祖母の家で頭に乗られたことがあるから。