……秘密があります
「夜、部屋に奴が出て一晩中外に出そうと頑張ったけど、駄目で寝られなかったことがあるんですよね~。

 お父さんたちも最初は出してくれようとしたんですけど、蜘蛛が逃げ回るから途中でめんどくさくなって、別に噛んだりしないから寝ろって。

 いやいやいや。
 顔の上に降ってきたりしたら嫌じゃないですか。

 だから私、結婚するのなら、あのデッカイ蜘蛛を外に出してくれる人と結婚したいんですよ」

「……それはなかなか技術がいることね」
と言ったあとで、阿佐子は、

「ま、ってことだから気をつけて」
と言って、いきなり話を閉めた。

「えっ?」

「私、ちょっと用事あるから、あんた頼むわ。
 残りの後片付け」

 ええーっ、と羽未は声を上げる。

 いやいや、ほんとに急ぎなのーっ、と言いながら、阿佐子はドアのところまで来たようだ。

 その姿がドアにはまっている小さなすりガラスにぼんやり映る。

 待て。
 そのドアを開ける気だな、栗原。

 そのあとの展開は容易に想像できる、と帯刀は思った。
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