……秘密があります
「さあ、来い」
と狭い給湯室によく響くいい声で帯刀は言う。

「課長。
 魔王かなにかみたいですよ。

 さあ、来い。
 お前に力をくれてやろう、みたいな」

 ……お前、普段、なに読んでんだ。

 そして、今の自分は魔王なんて格好いい代物ではない。

 震える手で新聞を蜘蛛に差し出しているのだから。

 すすすすっと蜘蛛はまた冷蔵庫の陰に隠れようとした。

 これでは、ふり出しに戻ってしまうっと思った帯刀が、
「待てっ」
と思わず叫んだとき、蜘蛛が声に驚いたように、ぴょん、と跳び、新聞紙に乗ってきた。

 あーっ!
と乗って欲しいと思っていたのにも関わらず、叫んでしまう。

 しかも、乗った蜘蛛がこちらに向かい、ひょんひょんと新聞紙の上を跳んできた。

 あーっ!
と羽未が後ろで叫ぶ。

 だが、意外に使える女、羽未は叫んでいるだけではなく、サッと窓を開けてくれた。
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