……秘密があります
「俺はどんな羽未でも羽未が好きだ」
と祭壇の前で、これこそが結婚の誓いであるかのように帯刀が言う。

「料理がキュウリを切るとか、チクワを切るとか。
 カマボコにわさびをつめるかとかしかできなくても、羽未が好きだ!」

 神聖なるチャペルに帯刀の朗々とした声が響き渡る。

 だから、普段から料理しときなさいって言ってたじゃないのっ、と悪鬼のごとき表情で、すぐ真横から母親がこちらを睨んでいる。

 違う意味で、顔が上げられなくなった。

「……要特訓ね」
とさちこがぼそりと言うのが聞こえてきたが、帯刀の話はまだまだ続く。

「冷静に考えたら、ちょっとこいつ、どうなんだろうなと思うようなところも、それが羽未なら全部好きだ。

 嫌なところもすべて含めて、好きと言えるのが本当の恋だと俺は思う」

 ……いや、その嫌なところは何処なんですか。

 今から新婚生活を歩み出そうというこのときに、そのセリフ。
 めちゃくちゃ気になりますがっ。

 ……いささかマヌケなところだろうかな。

 っていうか、貴方、この一生に一度の晴れ舞台で先程からなにを言ってらっしゃいますか。

 妖怪逆玉に連れ去られかけたところを妖怪顎クイが助けてくれるのかと思いきや、背後から斬りかかってきた感じなんですけど。

 だが、その妖怪顎クイこと、新郎様は羽未の顎に指をかけ、クイッとやると、誓いの言葉も言っていないのに口づけてきた。
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