……秘密があります
 思わず瞳を閉じたが、窓から差し込む光が眩しすぎて、目を閉じても、ああ今、あの祭壇の前でキスしてるんだな、と感じる。

 なんにも式は進んでいないのに、なんだか涙がこぼれてきて。

 こらえながら、羽未は目を開けた。

 潤んだ瞳で目の前に居る帯刀を見ると、強引にキスしてきたくせに、帯刀はちょっと悪かったかなという顔をして(ひる)んでいる。

 でも、そんなちょっぴりヘタレなところもすごく好きだ!

 だからこれも、本当の恋なんだろうと羽未は思った。

「……まあ、羽未さん。
 ほんとうに純粋な娘さんね」

 キスひとつで涙ぐむ自分を見て、一緒に涙ぐんでくれるさちこさんには、この恋が一夜の過ちから始まったとか。

 その事実を隠滅しようとして、指紋を消して歩いたとか言えないなと思ったときには、もう士郎は居なくなっていた。

 ……シロさん、と長年、兄のようだった士郎の姿を――

 いや、実の兄はそこに居るんだが、

 ――追うように開いたままの扉を振り返ったが、眩しい昼の光に照らされた教会の外には士郎の姿はなく――
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