君のキスが狂わせるから
***
深瀬くんの中でも思うところがあったのか、その日の連絡はなかった。
明日は金曜で、約束している土曜日まで後1日しかない。
(どうしよう)
その時ちょうど着信があり、私はすぐにスマホを手にとった。
深瀬くんかと思ったけれど、相手は美桜先輩だった。
きっと街コンのことだろう。
(メールでは断ったけど、言葉でもちゃんと言わないといけないかな)
「もしもし」
気が進まないながらも電話に出ると、彼女は案外機嫌が良かった。
『瑠璃ちゃん? この前は強引にごめんね〜』
「あ、いえ。私こそせっかくのお誘い断ってしまって……」
今、深瀬くんへの気持ちで揺らいでいるのに、街コンなんかにはとても参加できないと思って今日のお昼に断りのメールを入れてあったのだ。
『いいの、いいの。私、もう別の人見つけたから』
「え? 見つけた…って、恋人ですか?」
『まだ恋人じゃないんだけど、一応連絡先までは交換できたんだ。結婚はできないけど恋人ならなれそうな人』
「……どういう意味ですか」
『だって相手は既婚者だからね」
えっと思うことを、先輩は躊躇なく話す。
だから私はいつも突っ込む言葉も言えず、ただ黙って聞いてしまうのだ。
『しかも彼、財閥の御曹司なのよ? 凄くない?』
つまり、先輩は愛人候補ということだろうか。
それでこんなに嬉しがるなんて、美桜先輩の思考回路が全く分からない。
その彼は現在33歳の既婚者で大倉財閥の御曹司。
日本で誰もが知っているオークラという自動車会社の次期社長になる人らしい。
(その企業って、うちの会社の一番の取引先だ。出張で何度か本社に行ったけど、すごい大きいところだったな……)
そこまでは呆気に取られながら聞いてたものの、驚いたのはその後の話だ。
『先日私に失礼な態度だった深瀬って子いるじゃない? あの子、なんと彼の弟なのよ』
「……えっ」
(深瀬くんが?)
何かの間違いではないかと耳を疑う。
でも、美桜先輩の話は結構神妙性があるようにも聞こえた。
『苗字はお母さんの苗字使ってるらしいんだけど、あの子も紛れもない御曹司だったんだよねえ…どうりで年齢の割に女の扱い慣れてるし、落ち着いてると思ったよ。まあ、私は今お兄さんの方が好きだから弟は関係ないけど』
(深瀬くんが今は言えないって言ってた事情って、これのことなの?)
信じられない思いはまだあったが、自分の話をするわけにもいかず、先輩の話へと意識を戻す。
「……それで、美桜先輩はそのお兄さんと付き合えたらお幸せなんですか?」
「え、それは……」
次の言葉を言いかけて、先輩は少しだけ沈黙した。
本音をいえば、きっとちゃんとした恋人になりたいのだというのが伝わってくる。
(それはそうだよね。誰だって2番目は嫌だよ)
『今は恋人になれるだけで我慢するって思ってるの。いずれ一番になれる日が来るかもしれないし』
深瀬くんの中でも思うところがあったのか、その日の連絡はなかった。
明日は金曜で、約束している土曜日まで後1日しかない。
(どうしよう)
その時ちょうど着信があり、私はすぐにスマホを手にとった。
深瀬くんかと思ったけれど、相手は美桜先輩だった。
きっと街コンのことだろう。
(メールでは断ったけど、言葉でもちゃんと言わないといけないかな)
「もしもし」
気が進まないながらも電話に出ると、彼女は案外機嫌が良かった。
『瑠璃ちゃん? この前は強引にごめんね〜』
「あ、いえ。私こそせっかくのお誘い断ってしまって……」
今、深瀬くんへの気持ちで揺らいでいるのに、街コンなんかにはとても参加できないと思って今日のお昼に断りのメールを入れてあったのだ。
『いいの、いいの。私、もう別の人見つけたから』
「え? 見つけた…って、恋人ですか?」
『まだ恋人じゃないんだけど、一応連絡先までは交換できたんだ。結婚はできないけど恋人ならなれそうな人』
「……どういう意味ですか」
『だって相手は既婚者だからね」
えっと思うことを、先輩は躊躇なく話す。
だから私はいつも突っ込む言葉も言えず、ただ黙って聞いてしまうのだ。
『しかも彼、財閥の御曹司なのよ? 凄くない?』
つまり、先輩は愛人候補ということだろうか。
それでこんなに嬉しがるなんて、美桜先輩の思考回路が全く分からない。
その彼は現在33歳の既婚者で大倉財閥の御曹司。
日本で誰もが知っているオークラという自動車会社の次期社長になる人らしい。
(その企業って、うちの会社の一番の取引先だ。出張で何度か本社に行ったけど、すごい大きいところだったな……)
そこまでは呆気に取られながら聞いてたものの、驚いたのはその後の話だ。
『先日私に失礼な態度だった深瀬って子いるじゃない? あの子、なんと彼の弟なのよ』
「……えっ」
(深瀬くんが?)
何かの間違いではないかと耳を疑う。
でも、美桜先輩の話は結構神妙性があるようにも聞こえた。
『苗字はお母さんの苗字使ってるらしいんだけど、あの子も紛れもない御曹司だったんだよねえ…どうりで年齢の割に女の扱い慣れてるし、落ち着いてると思ったよ。まあ、私は今お兄さんの方が好きだから弟は関係ないけど』
(深瀬くんが今は言えないって言ってた事情って、これのことなの?)
信じられない思いはまだあったが、自分の話をするわけにもいかず、先輩の話へと意識を戻す。
「……それで、美桜先輩はそのお兄さんと付き合えたらお幸せなんですか?」
「え、それは……」
次の言葉を言いかけて、先輩は少しだけ沈黙した。
本音をいえば、きっとちゃんとした恋人になりたいのだというのが伝わってくる。
(それはそうだよね。誰だって2番目は嫌だよ)
『今は恋人になれるだけで我慢するって思ってるの。いずれ一番になれる日が来るかもしれないし』