君のキスが狂わせるから

「愛原さん!」

 額に汗が滲んでいて、ここまで走ってきたのがわかる。
 その姿に私は、単純にもじわっと胸が熱くなってしまった。

(心配してくれたんだ)

「電話かけてくれたんでしょ?」
「なんか胸騒ぎがして……鬼電しちゃいました。でも……目が覚めたみたいでよかった」

 ミホ先生のことは特に何も言わず、はあと安堵のため息をついている。
 私も今は彼女のことは口にする気持ちなれず、ただ深瀬くんがきてくれたことで安心していた。

「心配かけてごめんね」
「謝らないでください。俺が来てよかった…って言ってくれた方が嬉しいです」
「うん。深瀬くんが来てくれてよかった。嬉しかった……すごく」

 素直にそう言うと、彼はふっと笑って私の額に自分の手を乗せた。
 少しヒヤリとした手に思わずびくりとなる。

「熱はそんなにないみたいでよかった。起き上がったりできます?」
「うん……水分補給したら、多分立てると思う」

 支えてもらいながら起き上がると、私はボトルの水を可能な限り口に含んで飲み下した。
 乾燥していた細胞に水がシュワっと行き渡る感覚があって、どれだけ水が足りなくなっていたのかを実感する。

「……あの、愛原さん」

 深瀬くんは椅子に座って私の手をそっと握ると、真剣な瞳で私を見る。

「もし良ければ、愛原さんの部屋まで送らせてもらえませんか」
「え、でも…」
「…その、強引にキスしてしまって…すみませんでした」

 あの日の唇の感触を思い出し、心音が早くなる。

「流石にあれから積極的にはなれなくて、連絡も我慢してたんですが……今は俺に頼って欲しいんです」

「深瀬くん……」

(今の私はすごく弱っていて、気丈に振舞う自信がない)

 冷静になる自信もないし、迫られたら受け入れてしまう感じすらする。
 好きな人なのだから悪い感情ではないんだろうけれど、強引なキスをされたことや美桜先輩とのことなどを思い返すとこんな流れでいいのかとも思ってしまう。

「今調子が良くなったとしても、帰るまでに何かあっても困りますし。お願いします」

 頭まで下げられてしまうと、私も拒絶できない。
 幾度か同じような問答を繰り返し、結局私は深瀬くんに部屋まで送ってもらうことにした。
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