私立秀麗華美学園
「つーか水沢紗依香って誰だ?」

「知らないの? 美人って、割と有名だと思うけど。長ーい黒髪を縦ロールにしてて、色白で切れ長の目の綺麗な子。いつも赤色のふちメガネかけてるわね」


水沢についての情報を、頭の中で映像化してみたが、全く見覚えがない。
どうも俺は、同年代の他の男共に比べ、女の子についての情報に疎い。もちろんそれは、その手の情報を全く欲していないからである。


「そうや。あの美しいいいいーい水沢や。あんのメス豚が……」


あの、咲さん、激しくキャラ変わってますけど。


「まあ、雄吾ならしょうがないわよね」


その台詞、俺が雄吾の立場になった時に、ゆうかの口から聞ける日は来るだろうか。


「水沢紗依香……水沢紗依香……」


咲がメス豚の名前を呟いている隣で、俺とゆうかは再び依頼書に目を走らせた。


「拝啓小さなエセお姫様……咲のこと言ってるのかしら」

「まあ、わざわざメールじゃなく文書で届いてるってことはそうなんだろうな……神々しきオーラにまかれる騎士殿を一目見た折、わたくしめは深い感動を覚え……」

「なんか、相手が雄吾じゃなくっても、願い下げって感じね」

「要するに雄吾に一目惚れしたから、姫の座を譲り渡せってことだな」

「その通りよ!」


いきなり響き渡った耳障りな程甲高い声に、俺たちは一斉に視線を上げた。
その先には、ゆうかよりも背が高そうな女――確かに美女である――が、腕組みをして仁王立ちしていた。


「花鳥風月とかいうふざけたグループって、あんたたちのことね?」


俺たちが呆気にとられている中、突如登場した水沢紗依香は、俺たちの神聖な仕事場に、ずかずかと土足で踏み込んで来た。いや、履いているのは上靴だが。

水沢はゆうかの言ったそのまんまの髪型をしていた。目尻はつり上がり、鼻梁は細い。きつそうな顔をしているが、確かに綺麗だ。まあ、愛らしさとか気品とかその他もろもろを全て兼ね備えたゆうかには遠く及ばないけどな。


「ちょっと! どうして雄吾様がいないわけ!?」

「雄吾様……」


水沢はあからさまにため息をついて見せた。
ああ、またこの世界に、変な趣味の奴が一人増えてしまった。
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