私立秀麗華美学園
咲はなおもぎりりと水沢を睨んでいた。


「何すんのよ!」


水沢が、かっと目を見開いて片手を振り上げた。
美しさと恐ろしさは紙一重。たちまち顔が般若になる。

鋭い音が鳴り響く……かとおもいきや、水沢の平手を、咲はいとも簡単によけやがった。
右手に込めた力は行き場を失い、水沢は体勢を崩す。


「のろま!」

「なんですってえ!?」


いやいや、のろまはないだろ。小学生以下だなほんと。むしろ小学生に失礼だ。

水沢は下唇を噛みしめ、いかにも悔しそうな顔をした。地団太を踏み始めかねない。


「今に見てろ!」


なんとも男勝りな台詞を残すと、水沢は身を翻してその場を走り去った。


「二度と来んな!」


咲も負けじと叫び返す。
咲は、水沢が廊下を曲がるまで、きつく睨みつけていたが、その姿が視界から消えさると途端に表情を崩し、ぐずぐずとゆうかに抱きついた。


「咲?」

「ゆうかあ……」


涙声だった。ゆうかの腰に腕を回し、咲は恐らく声を押し殺して泣いている。


「なんなんあいつ……あいつが雄吾のこと狙ってるっていうのは、知ってたけど……依頼されたら、どうしようもないやんかっ……」

「どうしてよ? 断ればいいじゃない」

「断ったりしたら、逃げたと思われるからいややねん。だってやっぱり、普段のあたしやったら受けて立ってる。断るってことは、自信がないってことになるやん……」


ゆうかは真面目な顔をして、黙ったまま咲の頭を撫で始めた。

ぽつんと取り残された俺は、離れた場所から、ぼーっとその様子を見ていた。
確かに、いつもの咲なら受けて立っている。
それができないということは。

咲は今、雄吾に選ばれる自信を、持てていないということだ。
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