私立秀麗華美学園
「何用だ。はねえだろ」

「咲には、何を言っても無駄だ」


雄吾のその言葉で、背中を向けて不気味に押し黙っていた咲が猛然と振り返った。


「何が無駄やねん! 今更突然話しかけてきたと思ったら、一言目が『水沢……』やってんで!?」


咲は物凄い勢いでそれだけを言って、また背を向けた。
俺は雄吾の向いている方にまわって、ささやき声で聞いた。


「なんて言おうとしたんだ?」

「水沢から依頼あったんだろ? と」

「ああ……」


どちらにも、非はないよな。俺が依頼相手を言っておくべきだったか。


「いい加減にさあ、もーなんか、よくねえ? 咲も思い込むなって。この空気の息苦しいこと――」

「息苦しいんやったらここにおらんかったらええやん」


やっべえ。咲がスイッチオンだ。


「大体和人が首突っ込んでくることちゃうねんし」

「おい、咲。ゆうかと和人がどれだけ……」

「そうやん。心配かけてんのも何もかも、あんたがあたし無視するからやんか。それが諸悪の根源やん」

「それには、ちゃんと理由が……」

「なんなん!? どーせ水沢が好きなんやろ!?」

「……なにゆえ」


うすうす感づいてたけど、お前もうそれ口癖だよな。


「もうええわ! 帰らしてもらうわ!」


漫才師のような捨て台詞を残すと、咲は本当にプンスカ怒って寮へ帰ってしまった。


「あんなに怒ったの見たの、初めてね」


ゆうかは両手を下ろし、静かに言った。

雄吾は、未だに椅子の背にもたれかかっている。
後悔なのか未練なのか憂鬱なのかよくわからない表情を浮かべ、一心に、幾何学模様の床を見つめていた。
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