私立秀麗華美学園
「やっと仕事を終えて駆け付けたんだからな。探し回ってようやく見つけたと思ったのに、あんな言い草はないだろう。おい、和人、聞いてんのか」


放置された上、俺たち3人に完全に背を向けられた兄ちゃんは、微妙に口を尖らせながら俺たちの傍へ寄って来た。


「あーはいはい。別に駆け付けてもらわなくてもよかったのに」

「和哉はあんたに会いに来たわけじゃないのよ。ゆうかちゃんに会いに来たんだから」

「だから言ってんだよ」

「いいじゃない。せっかくお久しぶりに、会えたんだから」


よくねーよ。まったくもってよくねーよ!


「ゆうかちゃん髪伸びたわねー」

「一層美しくなって、ますます和人にはもったいない」

「前見た時よりもすごく大人っぽいし」

「ゆうかちゃん、このまま俺と一緒に……」

「だーもーっ! 触んなっつーの!」


ゆうかの髪を撫でた兄ちゃんの手に制裁。俺すら触らせてもらえないってのに。


「あいかわらず余裕もないわね、和人」


姉ちゃんはにやにやしながら自分の髪の毛をかきあげた。艶やかな黒髪が夕日を受けて輝く。

気にくわないことに、姉ちゃんも兄ちゃんも、異性うけのする顔をした、美形なのだ。もちろんゆうかや雄吾には及ばないが。

しかし2人の顔が似ているわけではない。そして俺も。昔から似ていない兄弟だとよく言われていた。
3人の唯一の共通点は、瞳がこげ茶色だということだけだ。いや、そんなとこ似られても、みたいな共通点。


「未だに毎日、ゆうかちゃんをとられないか気が気じゃないんでしょ」

「本当か? それなら全然まだまだ望みはあるな! はっはっは!」


あんたみたいなのがいるせいで俺は気が気じゃないんですが。


「ゆうかちゃん、和人じゃまだまだ頼りないだろ?」

「ええ、まあ」


必要以上に近づいて尋ねる兄ちゃんに、ゆうかは口に手をあてて笑いながら返事をした。


「ほーら見ろ。ほーら見ろ」


数年前に成人式を終えた社会人のものとは到底思えないからかい方に、俺はへいへいへいへいと適当に相槌を打った。
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